院長ブログ

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2025.11.07

猫の便秘って、実は“放っておけない”問題です

“猫の便秘”とは、猫ちゃんが「なかなかおしっこ(排便)しない」「硬くて出にくそう」「トイレに長時間こもっている」などの様子を示すときに疑う病態です。医学的には、「便の量が少ない、硬い、または排便困難」で、日常生活に影響を及ぼすことがあります。例えば、長時間便をため込むことで腸が広がって機能が落ち、「巨大結腸症(メガコロン)」という取り返しのつかない状態に進行することもあります。 MSD Veterinary Manual+2vet.cornell.edu+2
特に“猫”は便秘を起こしやすい動物で、当院でも数例を診療しており、「あれ?うちの子いつもと様子がちょっと違う…」という飼い主様の気付きが診断・治療開始のカギになります。

このページでは猫ちゃんの便秘について、少し“面白く”、そしてわかりやすくお伝えします。また、最近の研究から得られた知見も織り交ぜて、情報価値の高い内容にしました。

猫が便秘になりやすい要因:意外な“猫ならでは”ポイントも

便秘というと「食物繊維が少ない」「動かない」くらいに思われがちですが、猫には猫ならではの事情があります。以下、飼い主様が「へぇ、そうなんだ」と思っていただけるようなポイントを整理します。

・水分摂取量が少ない

猫はもともとあまり水を飲まない動物です。腸は便を“ためる+水分を再吸収する”機能がありますので、水分が少ないと便が硬くなり、排便困難になりやすいのです。実際、「脱水→便秘」という連鎖はよく知られています。 The Adored Beast Apothecary Blog+1
“自動給水器を使ってるけど、あまり飲んでいないようだ”というご報告も多く、猫の飼い主様には“水飲み量を観察する”ことを推奨しています。

・年齢・肥満・運動不足

高齢になると腸の蠕動(ぜんどう)運動が弱くなったり、筋力が低下したりするため便通が滞りやすくなります。さらに、室内飼育+あまり動かない環境だと、腸も“動かない機械”のようになってしまいます。実際、文献においても「高齢・肥満・慢性腎疾患」の猫は便秘・巨大結腸症のリスクが高いとされています。 MSD Veterinary Manual+1

・トイレ環境・ストレス・不快感

猫はトイレが気に入らなかったり、過去に痛みを伴う排便経験があったりすると「もういやだ」と思って我慢してしまうことがあります。例えば、関節炎で排便時にぎこちなさを感じていた猫ちゃんは“トイレに行きたくない”という心理を持つことも。結果、排便を先送りして便がどんどん固くなり、便秘になってしまう、という悪循環が起こりえます。 The Adored Beast Apothecary Blog+1
また、トイレが汚れていたり、数が少なかったり、場所が落ち着かない場所にあると、猫は排便を控える傾向があります。これも飼い主様には意外と見落とされがちですが重要です。

・食事・毛玉・異物/病的原因

  • 毛玉の大量摂取 → 毛がたまって腸内運搬が悪くなり、便秘誘発因子となることがあります。 The Adored Beast Apothecary Blog+1
  • 好奇心旺盛な猫ちゃんが異物(ビニール、紐、ヘアゴムなど)を誤飲して腸管内に滞留することも。これが腸内通過障害となり、便秘・腸閉塞の一歩手前、という状態に陥ることがあります。
  • 基礎疾患として、慢性腎臓病・甲状腺機能低下症・筋神経疾患・骨盤骨折後の骨変形など、腸運動を低下させる身体的因子もあります。 MSD Veterinary Manual+1

・腸運動の“機械的”低下(=“自然には戻らない”タイプ)

慢性便秘がさらに進行すると、腸壁の動き(蠕動運動)や神経制御が損なわれ、単に「固い便が出ない」から「腸そのものが動きにくくなった」段階に至ることがあります。例えば、研究によると、便秘や巨大結腸症の猫では「腸壁内のペースメーカー細胞(間質細胞)や神経細胞が減少している」ことが報告されています。 Today’s Veterinary Practice+1
このような段階になると、単なる食事・水分だけでは十分ではなく、薬剤・手術など専門的な介入が必要になることもあります。


最近のエビデンス:最新研究から見えてきたこと

飼い主様にも関心の高い「最新の研究情報」も、ここでご紹介します。専門的ですが、分かりやすく整理しました。

1)プロバイオティクス(腸内細菌サプリ)が便秘改善に有効?

最近の論文で、猫(特に子猫対象ですが)に対して「複数株プロバイオティクス(腸内細菌サプリ)」を14日間投与したところ、便秘発生率が有意に低かった、という報告があります。MDPI
この研究では、腸内細菌の構成そのものの多様性(α多様性/β多様性)には大きな変化が見られなかったものの、特定の善玉菌(例:Bifidobacterium animalis)の比率が上昇し、結果として“便秘になりにくい糞便環境”が得られたという内容です。
→ このことから「便秘予防として腸内細菌を整えるアプローチも将来的には有望である」という可能性が出てきています。

2)繊維(ファイバー/サイリウムヘスク)を使った研究

別の2024年の研究では、健康な猫に対してサイリウム(サイリウムハスク)を加えた食餌を与えたところ、「排便頻度の上昇」「糞便水分量の増加」「糞便の軟化」が認められたという報告があります。 journals.sagepub.com
このことから、便秘傾向のある猫に対して“繊維+水分”という組み合わせが理論的・実証的にサポートされてきています。

しかし繊維の与えすぎは返って逆効果ですので要注意

3)栄養・食事戦略のガイドライン的知見

2021年にまとめられた“猫の特発性便秘”に関する栄養・管理に関するレビューでは、以下のようなポイントが提示されています。 Today’s Veterinary Practice

  • 便秘猫の60~70%が「原因不明(特発性/idiopathic)」である。
  • 食事形態(ウェット vs ドライ)だけでは明確な差は出ていないが、全体として「水分量を増やす」「適度な繊維を入れる」ことが長期管理の鍵。
  • 繊維の種類(難溶性 vs 可溶性、発酵性かどうか)により、便通への影響が異なる。多数の研究が不足しているため“個別対応”が推奨される。
  • 便秘予防・管理には“水分確保 → 繊維入り食事 →環境・運動”という複合アプローチが必要。
  • 医療的介入(浣腸、薬剤、手術)に頼る前に“生活・食事・水分”を整えることが非常に有効。

4)臨床的には「巨大結腸症(メガコロン)」への移行を防ぐことが重要

“便秘を何となく過ごす”と、腸管が反応しなくなり、拡張してしまった“巨大結腸症”という状態になるリスクがあります。実際、最新のマニュアルでも「猫の便秘・便通消失→巨大結腸症→手術」という流れを警告しています。 MSD Veterinary Manual
このため、便秘を“軽く見ない”こと、できるだけ早期に介入することが臨床では非常に重要です。

飼い主様向け:便秘を早期に見つける“5つのサイン”

飼い主様が「もしや…?」と思ったら早めに受診を検討していただきたいサインを挙げます。覚えやすく、実践的です。

  1. トイレに入っている時間が長い
     いつも1~2分で済んでいたのに、5分、10分と入ったまま出てこない場合。
  2. 排便回数が減った
     「昨日出た?」「2日出ていない?」と気になったら要チェック。
  3. お腹を触ると張っている/硬い
     膨らんでる、お尻側がぽっこりしている、など。
  4. 便の形が細い・硬い・小さい
     いつもより細かったり、コロコロ、飴玉状になっていたり。
  5. 元気・食欲がいつもと違う/トイレを嫌がる
     排便時に鳴く、トイレを避ける、食べる量が減ってきたなど。

これらのうち一つでも「おや?」と感じたら、まずはトイレ環境・水分摂取・食事内容を見直してみてください。そして改善しなければ、早めにご相談いただくことをお勧めします。


当院で飼い主様にお願いしている“便秘対策3つの柱”

当クリニックでは、診療の際に飼い主様に以下の3つのポイントを徹底してご案内しています。

1. 水分をしっかり摂る+トイレ環境を整える

  • ウェットフードの割合を増やす、またはドライフードにぬるま湯を少量足して“水分を含んだご飯”にする。
  • 自動給水器・給水ボウルの複数設置で「飲みにくさ」をなくす。
  • トイレは猫数+1以上を設置、静かで落ち着ける場所に。トイレ周りの掃除をこまめに。

2. 適度な繊維入り+腸ケア食への切り替え

  • “適度な繊維(可溶性/難溶性、発酵性)”を含む食事に変える。繊維だけ多くても水を補わないと返って便が硬くなるので要注意。 Today’s Veterinary Practice+1
  • 毛玉ケアや腸内環境をサポートするフードに切り替える。
  • 食事切り替えの際は、必ず数日~1週間かけてゆっくり実施。便通の変化を観察。
  • 飼い主様には「便のコロコロ、細くないか」「便の色・量・香りはいつもと変わりないか」などをチェックしていただいています。

3. 運動・体重管理・定期チェック

  • 室内飼育でも、キャットタワー・おもちゃ・追いかけ遊びなどで運動量を確保。
  • 適正体重を維持すること。「ぽっちゃり=動きにくい=便通悪化」に直結。
  • 定期的(年に1~2回)に便の出具合・体調・腹部触診などチェック。
  • 運動器疾患・お尻の痛み(例えば関節痛、ヘルニアなど)が便通の妨げになっていないかも定期に確認。

よくある飼い主様の質問&当院のアドバイス

Q1. 「猫用の下剤ってありますか?」

A1. はい、ありますが“自己判断で常用する”のはおすすめできません。便秘の原因が何か(脱水?運動不足?異物?腸運動低下?)をまず調べ、原因に応じて下剤・浣腸・腸運動促進剤を選びます。また、繊維・水分・環境を整えた上で併用するのが理想です。文献でも「水分+繊維」が長期管理の要とされています。 Today’s Veterinary Practice

Q2. 「ドライフードだけだと便秘になりやすいですか?」

A2. ドライだけだから絶対便秘になる、というわけではありませんが、猫は本来あまり水を飲まない動物であるため、水分が少ない食事環境では便を硬くしやすいというリスクがあります。レビューでは、“ウェット食に変えたから便秘しにくくなった”という報告もあります。とはいえ、形態(ドライ vs ウェット)だけでなく「水分量」「活動量」「トイレ環境」がセットで重要です。 Today’s Veterinary Practice+1

Q3. 「便が出てない/少ないけど元気なので放っておいても大丈夫でしょうか?」

A3. 元気・食欲があるからといって油断は禁物です。便が出ていないということは“腸内に便がたまっている”可能性があります。文献にも「ため込みが進むと腸拡張・動き低下(巨大結腸)につながる」旨が書かれています。 MSD Veterinary Manual+1
特に、3〜4日出ていない、または便が非常に少ない・硬い・細くなっている場合は早めの受診をおすすめします。

Q4. 「毛玉を吐いたり飲み込んだりしているので便秘になるんですか?」

A4. はい、可能性があります。毛をたくさん飲み込む(過剰グルーミングなど)があると、毛玉と便が混じって腸内通過が遅れることがあります。毛玉対策+こまめな排便チェックで、便秘リスクを下げることができます。さらに、毛玉が原因で通過障害→便秘→腸拡張という流れになることもありますので注意が必要です。 The Adored Beast Apothecary Blog

飼い主様へのメッセージとしては、

「便が出ていない=大丈夫」ではなく「便が出ていない=何か変化があるサイン」と捉えてください。猫ちゃんの“ちょっとした変化”を見逃さず、早めに行動することが、快適な日常生活に繋がります。
ということをぜひお伝えしたいです。

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