2025.12.01
犬猫の歯周病|3歳以上の8割が罹患?原因・症状・最新の予防と治療法を獣医師が解説
犬猫の歯周病とは?3歳以上の8割がかかる“国民病”レベルの病気
「うちの子はまだ若いから大丈夫」と思っていませんか?
実は、3歳以上の犬猫の80%以上が歯周病(歯肉炎+歯周炎)を持っていると言われています。
歯周病とは、歯の表面についた**歯垢(プラーク)**や歯石に増えた細菌が、歯ぐきや歯を支える骨(歯槽骨)に炎症を起こし、最終的には歯がグラグラして抜けてしまう病気です。初期は口臭や軽い赤み程度ですが、進行すると強い痛みや出血、顔の腫れ、あごの骨折などを起こすこともあります。JSAVA一般社団法人日本小動物獣医師会+1
さらに近年の研究・ガイドラインでは、**歯周病は全身の健康とも深く関係する“全身病の一部”**として位置づけられています。心臓病、腎臓病、肝臓病などとの関連が指摘されており、単なる「口のニオイの問題」では済まされません。JSAVA一般社団法人日本小動物獣医師会+1
なぜ犬猫は歯周病になりやすいのか?
1. 口腔内の細菌+歯垢(プラーク)
食べかすや唾液のタンパク質に細菌がくっつき、数時間で「歯垢(プラーク)」が形成されます。
この歯垢が2〜3日放置されると、唾液中のミネラルと結合して「歯石」となり、表面がザラザラすることでさらに細菌の温床になります。JSAVA一般社団法人日本小動物獣医師会
2. 小型犬・短頭種、猫ならではのリスク
- 小型犬や短頭種(トイ・プードル、チワワ、ポメラニアン、シーズー、フレンチブルなど)は、歯の生えるスペースが狭く歯並びが密になりがちで、汚れが溜まりやすいことがわかっています。
- 猫では、歯周病に加えて**吸収病変(歯がとかされる病気)**や口内炎が併発し、強い痛みを伴うことが多いと報告されています。
3. ヒトと違い「毎日みがかない」のが普通
海外・日本のガイドラインでは、犬猫も毎日〜少なくとも週3回以上のブラッシングが推奨されていますが、実際に実行できている飼い主さんは少ないという調査があります。
歯周病の進行ステージと主な症状

歯周病は、一般に次のようなステージで進行していきます。
ステージ1:歯肉炎(初期)
- 口臭が少し気になる
- 歯ぐきがうっすら赤い
- 歯の表面にうっすら黄ばみ
この段階なら、適切なクリーニングとホームケアで元の状態に戻せる可能性が高いです。
ステージ2:軽度歯周炎
- 口臭がはっきりしてくる
- 歯ぐきが腫れ、触ると少し出血する
- 歯と歯ぐきの間に小さなすきま(歯周ポケット)ができ始める
歯を支える骨の吸収が始まっており、放置すると元には戻りません。
ステージ3〜4:中等度〜重度歯周炎
- 強い口臭、ヨダレが増える
- 歯ぐきからの出血・膿、顔の腫れ
- 歯がグラグラして物が噛めない、片側だけで噛む
- あごの骨折、鼻汁、くしゃみ、目の下の腫れなどを伴うことも
ここまで進むと、抜歯や外科的処置が必要になり、痛みも強く生活の質が大きく低下します。
放置すると「歯」だけの問題では済まない全身への影響
歯周病の原因となる細菌や炎症物質は、血流に乗って心臓・腎臓・肝臓など全身の臓器へ運ばれます。
ヒトの医療では、歯周病が心血管疾患・糖尿病・腎疾患の悪化要因となることがよく知られており、犬猫でも同様の関連性が報告されています。
- 心臓(僧帽弁閉鎖不全症など)の悪化
- 腎臓病・肝臓病のリスク増加
- 慢性炎症による免疫力低下
「歯が悪いだけ」と侮らず、慢性疾患を持つ高齢の犬猫ほど、歯周病管理が重要です。
最新ガイドラインに基づく診断と治療
1. 全身麻酔下での口腔内検査とデンタルX線検査
2019年AAHA(アメリカ動物病院協会)やWSAVA(世界小動物獣医師会)のデンタルガイドラインでは、歯周病の診断・治療には「全身麻酔下での口腔内検査と歯科用X線撮影」が必須とされています。
見えている歯冠だけではなく、
- 歯根の周囲の骨吸収
- 歯の破折や根尖病変
- 猫の吸収病変の有無
をX線で確認することで、抜歯が必要な歯と保存できる歯を正確に見極めることができます。
2. スケーリング・ルートプレーニング・ポリッシング
治療の基本は、ガイドラインに沿った以下のステップです。
- スケーリング:超音波スケーラーなどで、歯肉縁上・縁下の歯石を除去
- ルートプレーニング:歯周ポケットの中の汚れ・感染組織を除去し、歯根表面を滑らかにする
- キュレッタージ:不要な炎症性軟部組織を除去
- ポリッシング:ラバーカップで歯面を磨き、プラーク再付着を抑える
進行度によっては、歯肉フラップ手術や抜歯が必要になることもあります。
3. 「無麻酔スケーリング」が推奨されない理由
日本小動物歯科研究会や日本小動物獣医師会の資料では、無麻酔での歯石除去は歯周ポケット内部を処置できず、かえってトラブルを招く危険性があると警鐘を鳴らしています。sippo+3日本小動物歯科研究会+3JSAVA一般社団法人日本小動物獣医師
- 歯の表面の見える歯石だけを削り取っても、
- 歯周ポケット内の歯垢・歯石・細菌は残ったまま
- 歯ぐきに傷をつけるリスク
- 動物が嫌がることで口腔への恐怖心が強くなる
- 獣医師以外による歯科処置は、法的にも問題となり得ます
「見た目だけキレイにする」ケアではなく、ガイドラインに沿った“治療”が重要です。
家でできる最新の歯周病予防:ポイントは「ブラッシングが主役」
1. 歯ブラシによる機械的清掃が最も有効
国内外のエビデンスでは、最も効果的なホームケアは歯ブラシによるブラッシングであり、毎日〜少なくとも週3回以上が推奨されています。回数が週3回を下回ると、効果が大きく減るという報告もあります。
- 小さめのヘッド・柔らかい毛の歯ブラシ
- 指サックやガーゼから段階的に慣らす
- ペット用の歯磨きペースト(人用は×。キシリトールや界面活性剤が有害なことがあります)
2. サプリ・ジェル・歯みがきガムだけに頼らない
サプリメントやデンタルジェル、ガムなどは「歯みがきが難しい子の補助」としては有用ですが、歯ブラシによる機械的なプラーク除去の効果には及びません。
子犬・子猫のうちから始めるのが“最新の予防歯科”の基本
AAHAやWSAVAのガイドラインでは、予防は子犬・子猫の初診時からスタートすることが強調されています。
- 乳歯の時期から口周りを触られることに慣らす
- ごほうびを使いながら、口を開ける→歯に触れる→ガーゼでこする→歯ブラシ、という段階を少しずつ
- 成犬・成猫になってから「いきなり歯みがき」を始めるよりストレスが少ない
特に小型犬や短頭種、口内トラブルの多い猫では、**若齢期からの「予防歯科プログラム」**が、その子の一生の歯と全身の健康を左右するといっても過言ではありません。
こんなサインがあれば、早めに動物病院へ
- 口臭が強くなった
- 歯ぐきが赤い/腫れている/血が出る
- 歯が黄〜茶色に汚れている
- 片側だけで噛む、食べ方が変わった、硬いものを嫌がる
- 顔が腫れている、目の下にデキモノができた
これらが見られたら、自己判断せずに動物病院での口腔内検査を受けることをおすすめします。必要に応じて、全身麻酔下での歯科処置やX線検査を提案されるでしょう。
飼い主さんにおすすめの参考リンク(外部サイト)
専門的なガイドラインや情報をもっと読みたい方のために、信頼できる外部リンクをまとめました。
- 日本小動物歯科研究会
小動物歯科の研究・教育を行う学術団体。無麻酔スケーリングの問題点や、適切な歯周病治療についての情報あり。日本小動物歯科研究会 - 日本小動物獣医師会:犬の歯周病リーフレット(PDF)
歯周病の原因と進行、治療の考え方が図入りで解説されています。JSAVA一般社団法人日本小動物獣医師会 - AAHA「2019 Dental Care Guidelines for Dogs and Cats」(英語)
犬猫の歯科診療に関する国際的ガイドライン。麻酔下での歯科処置や予防の考え方が詳しく示されています。AAHA+1
まとめ
- 犬猫の歯周病は3歳以上の8割がかかる非常に一般的な病気
- 放置すると歯が抜けるだけでなく、心臓や腎臓など全身の病気とも関連
- 最新ガイドラインでは、全身麻酔下での歯科検査・X線検査・スケーリング〜ポリッシングが標準治療とされる
- 無麻酔スケーリングは、十分な治療にならないどころか、トラブルの原因にもなり得る
- 最も効果的な予防は、毎日〜週3回以上のブラッシング+デンタル製品などの補助
- 子犬・子猫のうちからの口腔ケア習慣が、一生の健康を左右する