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犬の乳腺腫瘍

1. 犬の乳腺腫瘍とは

犬の乳腺腫瘍は、**乳腺にできる「しこり」を総称する病気で、良性から悪性(乳腺がん)まで幅広いのが特徴です。見た目や触った感触だけで良性・悪性を断定できないことが多く、最終的には病理検査(組織検査)**で診断します。
臨床現場では「小さいから大丈夫」「動かないから悪い」などの経験則が語られがちですが、実際には例外も多く、腫瘍の性質(組織型・悪性度)+転移の有無をセットで評価して治療計画を立てるのが現在の標準的な考え方です。


2. 発生しやすい犬・リスク因子

未避妊のメスで多い

乳腺腫瘍はメスに多く、特に未避妊または避妊が遅い個体でリスクが高くなることが知られています(ホルモンの影響が大きい腫瘍群が含まれるためです)。
一方で「避妊したから絶対できない」ではなく、避妊済みでも発生はあり得ます。年齢、品種、肥満、ホルモン環境など複数の要因が重なると考えられています。

体表の“いつもの場所”にできるからこそ、発見が遅れやすい

乳腺は胸から鼠径部まで左右に並ぶため、毛の多い犬や抱っこが多い犬では、しこりがあっても「皮膚の厚み」くらいに感じて見落とされることがあります。飼い主さんには、月1回のボディチェック(乳腺ラインを指でなぞる)を勧めると早期発見につながります。


3. 症状:どんな「しこり」が要注意?

乳腺腫瘍は多くの場合、初期は痛みがなく、生活に変化が出にくいのが厄介な点です。以下は受診の目安になります。

  • 乳腺付近にしこり(1個でも複数でも)
  • しこりが急に大きくなった/短期間でサイズが変化
  • 皮膚が赤い・ただれる・潰瘍化して出血や感染がある
  • しこりが硬く、周囲に固定されている感じがする
  • 腋窩・鼠径部リンパ節が腫れている、咳が出る、元気食欲低下(進行例)

ただし繰り返しますが、触診の印象だけでは限界があるため、検査で確かめるのが最も大切です。


4. 診断の基本:病理が最重要、画像検査は“転移評価”が目的

4-1. 針生検(細胞診)は「補助」として有用

体表のしこりなので、細胞診で手がかりを得ることはあります。ただ、乳腺腫瘍は組織構造が多様で、細胞診だけで悪性度を正確に評価しにくいケースがあります。最終判断はやはり**切除後の組織検査(病理)**が中心です。

4-2. 画像検査(胸部・腹部)は「転移・併発病変」を確認する

悪性乳腺腫瘍では、リンパ節転移肺転移が重要になります。胸部X線は基本ですが、より精密な評価にはCTが有利なこともあります。腹部超音波は肝脾・腎・子宮などの評価、併発疾患の把握に役立ちます。

4-3. リンパ節評価は“近年のアップデート領域”

これまで「腫れているリンパ節=転移の疑い」として扱われがちでしたが、炎症で腫れることもあり、逆に腫れていなくても転移が潜むことがあります。近年は**センチネルリンパ節(Sentinel Lymph Node:SLN)**という概念がより重視されています。
SLNとは「その腫瘍から最初にリンパ流が到達するリンパ節」で、解剖学的に想定される“所属リンパ節”と一致しないこともあるため、腫瘍ごとのリンパ流を可視化して、評価すべきリンパ節を特定する流れが強まっています。総説でも、獣医領域におけるSLNマッピング技術(造影超音波、CTリンフォグラフィ、ICG近赤外蛍光など)の整理が進んでいます。 


5. ステージング(進行度評価):予後と治療方針を決める地図

乳腺腫瘍は一般に、

  • T(原発腫瘍の大きさ・浸潤)
  • N(リンパ節転移)
  • M(遠隔転移:主に肺など)
    の要素をもとに進行度を評価します。
    臨床的に重要なのは「腫瘍が大きい/皮膚潰瘍がある」「リンパ節転移がある」「肺転移がある」などの所見で、これらは治療選択だけでなく、飼い主さんへの予後説明(どこまでを目標に治療するか)にも直結します。

6. 治療の中心は手術:術式は“腫瘍の位置・数・ステージ・病院方針”で決まる

6-1. 手術が第一選択になりやすい理由

乳腺腫瘍は体表にあり、外科的に切除可能であることが多いため、根治を目指す治療の中心は手術です。特に、転移が確認されていない段階での手術は、予後改善が期待できます。

6-2. どこまで取る?(局所切除〜領域切除〜片側全摘など)

術式には幅があり、腫瘍の場所(どの乳腺か)、数(単発か多発か)、周囲への浸潤、皮膚の余裕、そして転移評価や麻酔リスクなどを総合して決めます。
「大きく取れば安心」という単純な話ではなく、切除縁(マージン)病理での悪性度リンパ節評価を組み合わせて最適化するのが現代的です。

今回の症例は、右側前胸部第二乳腺下部辺りに3センチほどの腫瘤性病変を認めました。

辺縁切除にて、病変を摘出しました。


7. 病理検査(組織診断)が“治療の羅針盤”

手術で切除した腫瘍は、可能な限り病理検査へ提出します。病理で重要なのは次の要素です。

  • 組織型(どんな種類の腫瘍か)
  • 悪性度(グレード)
  • 脈管侵襲(リンパ管・血管に入り込んでいるか)
  • 切除縁(マージン)(腫瘍が取り切れているか)

これらは、術後に「追加治療を検討するか」「フォロー間隔をどうするか」を決める材料になります。


8. バイオマーカー(Ki-67、受容体など):最新知見としての位置づけ

近年、犬の乳腺腫瘍でも、**増殖能(Ki-67)**や免疫関連指標、血清マーカーなどが研究されています。2025年の研究では、Ki-67が転移予測に有用である可能性が示唆されています(診断補助やリスク評価の文脈)。
また、犬の乳腺腫瘍はヒト乳がんのモデルとしても注目され、分子生物学的特徴(受容体、炎症・免疫、COX-2など)のレビューが増えています。

ただし臨床での注意点は、

  • カットオフ(何%以上を高値とするか)が研究により異なる
  • 病理の前処理や評価法で値が変わる
  • 単独で治療を決めるのではなく、グレードや転移と合わせて解釈する
    という点です。つまり、現時点では**「使える可能性は高いが、万能ではない」**。この距離感が飼い主様説明でも重要です。

9. 術後補助療法(化学療法・メトロノミック等)は“症例選択”が鍵

犬の乳腺がんに対する術後補助療法は、一定の条件(高悪性度、脈管侵襲、リンパ節転移など)で検討されますが、ヒトのように大規模試験が豊富な分野ではなく、レビュー/コンセンサス文献を踏まえつつ個別化するのが現実的です。近年のコンセンサス文書では、診断・予後因子・治療の整理が更新されています。 
そのうえで、補助療法を選ぶ際は「期待できる上乗せ効果」と「副作用・通院負担」を天秤にかけ、飼い主さんの価値観も含めて決めていきます。


10. フォローアップ(再発・転移の監視):最初の1年が大切

術後は、腫瘍のタイプやステージによりフォロー内容が変わりますが、一般に重要なのは以下です。

  • 手術部位の触診、皮膚の状態確認
  • 残存乳腺のチェック(多発・新規発生の可能性)
  • リンパ節触診+必要に応じ画像
  • 胸部画像(X線/CT)をリスクに応じて実施

特に悪性例では、術後半年〜1年は比較的短い間隔での評価が安心につながります。


11. 飼い主さん向け:よくある質問(SEOで強いパート)

Q1:しこりが小さければ良性ですか?

小さくても悪性のことはあります。サイズは一要素で、病理検査で確定します。

Q2:避妊すれば乳腺腫瘍は防げますか?

リスクを下げる可能性はありますが、100%ではありません。年齢や体質なども影響します。

Q3:手術だけで治りますか?

早期で転移がない場合は、手術が大きな効果を持ちます。一方、悪性度や転移の状況によっては、追加治療や慎重な経過観察が必要です。

Q4:リンパ節は必ず取るべきですか?

「必ず」ではありません。ただし転移評価は重要で、近年はセンチネルリンパ節(SLN)を同定して評価する考え方が広がっています。 Frontiers+1


12. まとめ:犬の乳腺腫瘍は「病理+転移評価+手術」が基本、リンパ節評価はアップデートが進行中

  • 乳腺のしこりは、良性・悪性が混在し、見た目だけで決められない
  • 治療の中心は手術だが、治療方針と予後は 病理(組織型・グレード・脈管侵襲・切除縁) と 転移(リンパ節・肺) が左右する
  • リンパ節は「どこが本当に流入リンパ節か」を見極める時代へ。SLNマッピング(ICG、CTなど)の研究が進み、より正確なステージングが期待されている 
  • Ki-67などの指標は有望だが、現時点では総合判断の一部として扱うのが現実的
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