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腫瘍科

犬の肺腫瘍

犬の肺腫瘍とは(原発性と転移性)

犬の肺にできる「腫瘍(しゅよう)」は、大きく ①肺そのものから発生する原発性肺腫瘍 と、②他の部位のがんが肺へ広がる転移性肺腫瘍 に分かれます。臨床現場では、画像検査で肺に“しこり”が見つかった時点で、まずこの二つを同時に考えます。
原発性肺腫瘍は犬では頻度として高くはありませんが、近年はCTの普及により「無症状のうちに偶発的に見つかる」ケースが増えています。 


犬の肺腫瘍で見られる主な症状

肺腫瘍の症状は「呼吸器症状」が典型ですが、腫瘍の位置・大きさ・炎症の合併で幅があります。

  • 咳(乾いた咳、運動や興奮で悪化)
  • 呼吸が速い/息が浅い(努力呼吸)
  • 運動不耐性(散歩ですぐ疲れる)
  • 食欲低下、体重減少
  • 発熱、元気消失
  • まれに喀血(血の混じる痰)
    一方で、単発の小さな腫瘤は無症状のまま健診画像で見つかることもあります。 

診断の流れ:レントゲンだけで終わらせない

肺腫瘍の評価で重要なのは、「肺の病変そのもの」だけでなく、広がり(病期:ステージ) を把握して治療方針を最適化することです。

1)胸部レントゲン検査

スクリーニングとして有用ですが、

  • 小さな病変の見落とし
  • 位置関係(肺葉・縦隔・リンパ節)の把握不足
    が課題になります。

2)胸部CT検査(推奨)

現在の知見では、肺腫瘍の評価においてCTは非常に有用で、

  • 腫瘍の正確な位置・サイズ
  • 肺葉の同定、胸壁浸潤の有無
  • 縦隔リンパ節や微小転移の評価
  • 手術計画(肺葉切除の設計)
    に大きく貢献します。 

3)細胞診/組織検査(確定診断)

最終的な確定は病理検査です。肺腫瘍は、腫瘍タイプにより治療と予後が変わります。特に、後述する組織球性肉腫のように免疫染色が診断の鍵になる腫瘍もあります。 


原発性肺腫瘍:代表は「肺癌(肺腺癌など)」

犬の原発性肺腫瘍の代表は、上皮系腫瘍(いわゆる肺癌)です。レビューでは、病期が早い(例:小さく、局所に限局)ほど長期生存が期待でき、外科切除が最も重要な治療として位置づけられています。 PMC

外科治療(肺葉切除)が基本

単発で切除可能な場合は、肺葉切除(lung lobectomy)を中心に検討します。
近年の後ろ向き研究でも、原発性肺腺癌の症例において外科切除後の予後解析が報告されており、病期や転移の有無が成績に影響することが示されています。 PMC

術後補助療法(抗がん剤)は「病期・病理で選ぶ」

原発性肺癌は、完全切除できたとしても再発や転移のリスクがゼロではありません。補助療法として各種化学療法が検討されることはありますが、「全例に一律」ではなく、病理結果(悪性度・脈管侵襲など)や病期(リンパ節・遠隔転移)を踏まえて適応判断する考え方が主流です。 


転移性肺腫瘍:まず「原発巣探し」と「全身の評価」

肺に多発結節がある場合は転移性が疑われます。この場合、治療方針は

  • 原発腫瘍の種類
  • 既に全身へ広がっているか
  • 痛み・呼吸苦など生活の質(QOL)
    に左右されます。局所治療(肺の手術)よりも、全身治療(抗がん剤など)や緩和ケアが中心になるケースも少なくありません。 

肺組織球性肉腫(Pulmonary Histiocytic Sarcoma)とは

ここからが本題です。**組織球性肉腫(Histiocytic sarcoma:HS)**は、免疫系の細胞(樹状細胞/マクロファージ系)由来の悪性腫瘍で、犬では侵襲性が高いタイプとして知られます。なかでも、**肺に原発または強く病変を形成するHS(肺組織球性肉腫)**は、画像上「肺腫瘍」として発見され、病理+免疫染色で診断されることが多い腫瘍です。 

肺HSが疑われる臨床シーン

  • 大型犬、とくにバーニーズ・マウンテン・ドッグなどで肺腫瘤
  • 肺の腫瘤に加えて、縦隔リンパ節、皮下、脾臓などの病変が同時期に見つかる
  • 進行が速く、短期間で病変が増える
    ※もちろん犬種だけで決めつけはできませんが、臨床的にHSを鑑別に入れておく意義は大きいです。 

確定診断の鍵:免疫染色

HSは「見た目」だけでは他の肉腫や炎症性病変と区別が難しいことがあります。病理診断に加え、免疫染色で組織球系マーカーを確認して診断に至る流れが一般的です。肺病変としてHSが確認され、肺葉切除が実施された症例報告もあります。 


肺HSの治療:外科+全身治療をどう組み立てるか

1)外科(肺葉切除)

病変が単発で切除可能、呼吸状態が許す、かつ転移評価を行ったうえで適応がある場合、外科切除は重要な選択肢になります。腫瘍量を減らす(debulking)意味でも、症状緩和の意味でも価値があります。 

2)化学療法:ロムスチン(CCNU)が中心に議論される

HSの全身治療では、ロムスチン(CCNU)が用いられることが多く、肺HSの術後にCCNUを投与した報告もあります。 
一方で、CCNUは有効性が期待される反面、骨髄抑制(特に好中球減少)や肝毒性が重要な副作用として知られ、投与設計とモニタリングが治療成否に直結します。 

好中球減少への備え(最近の論点)

近年の獣医腫瘍学領域では、CCNU誘発性の好中球減少に関して、腫瘍タイプ(HSなど)がリスクに関係する可能性や、感染性合併症(発熱性好中球減少)をどう予防・早期対応するかが議論されています。 
実臨床では、投与前後の血球計算(CBC)を適切に組み、必要に応じて用量調整・休薬・支持療法を組み合わせます。

肝毒性(遅れて出ることがある)

CCNUの肝障害は、投与を重ねた後に問題化することがあり、血液化学検査での追跡が推奨されます(肝酵素上昇〜重度障害まで幅)。 

3)放射線治療・併用療法

HSは局所+全身の両面で進行することがあり、病変部位や病勢により放射線治療や併用療法が検討されます。ただし「標準治療がこれ」と一言で言い切りにくい腫瘍で、個々の病期・病変分布・体力(PS)で最適解が変わります。 


予後の考え方:ポイントは「病変の分布」と「病勢コントロール」

肺腫瘍の予後は、腫瘍タイプによって大きく異なります。原発性肺癌では、早期・単発・完全切除ができた場合に比較的良好な生存期間が期待される一方、進行例や転移例では厳しくなります。 
HSに関しては一般に侵襲性が高く、局所に見えても全身性に振る舞う可能性があるため、術後の全身治療の要否再発・転移を前提としたモニタリングが重要になります(症例報告ベースでも術後に他部位病変が見つかる経過が示されています)。 


経過観察(フォローアップ)の実際:再発を「早く見つける」設計

肺腫瘍では、症状が出てからでは遅いことがあるため、治療後は計画的な再評価が推奨されます。

  • 身体検査:呼吸数、努力呼吸、聴診、体重
  • 血液検査:炎症所見、CCNU使用時はCBC+肝酵素など 
  • 画像検査:胸部レントゲン/必要時CT(再発・転移評価) 

「どの間隔で、何を、どれくらい行うか」は腫瘍タイプ・病期・治療内容で変えます。特にHSや高悪性度が疑われる場合は、より短いスパンでの評価が検討されます。


飼い主さまへの説明で大切なこと(臨床での伝え方)

肺腫瘍は「手術で取れれば終わり」と言い切れないことがあります。だからこそ、

  1. 確定診断(病理)
  2. 病期(CT・リンパ節・遠隔転移)
  3. 治療の優先順位(延命か、QOLか)
    を丁寧にすり合わせることが、結果として最短距離になります。 

よくある質問(FAQ)

Q1. 犬の肺腫瘍は手術で治りますか?

単発で完全切除でき、転移がない(または極めて限定的)場合は、長期生存が期待できることがあります。一方、多発病変や転移がある場合は全身治療や緩和ケアが中心になることがあります。 

Q2. CTは必須ですか?

必須ではありませんが、手術計画や転移評価の精度が大きく上がるため、方針決定に強く役立ちます。 

Q3. 肺組織球性肉腫は抗がん剤が必要ですか?

HSは侵襲性が高い腫瘍として扱われ、外科単独よりも全身治療(CCNU等)を組み合わせることが検討されます。ただし副作用管理が重要で、体力や病変分布で適応が変わります。 


まとめ:肺腫瘍は「タイプ診断」と「ステージング」で最適解が変わる

犬の肺腫瘍は、原発性(肺癌など)と転移性で戦略が大きく異なります。さらに、肺病変として見つかる腫瘍の中には、**肺組織球性肉腫(HS)**のように、免疫染色で確定し、術後の全身治療や慎重なモニタリングが重要になるタイプもあります。 
大切なのは、「画像で見えた腫瘍」を治すのではなく、その腫瘍が“どんな性格で、どこまで広がっているか”を見極めたうえで治療を組み立てることです。

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