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循環器科

犬の肺高血圧症

症例


ペキニーズ、去勢雄、11歳

来院理由

動悸が激しい、呼吸が苦しそう

身体所見

開口呼吸

検査

【血液検査】

・近日で他院で検査しており、特記事項なし

【腹部エコー検査】

・肝臓に占拠性病変あり

【胸部レントゲン検査】

・右心の拡大

【心臓エコー検査】

・有心系の拡大、心室中隔の扁平化、大動脈肺動脈径比1.15、三尖弁流速4.2m/sec

【診断】

・肺性肺高血圧症

方針

・酸素室での管理と、シルデナフィル投与開始

経過

・加療後2日目から呼吸状態の正常化を確認

肺高血圧症とは?

ACVIMによる肺高血圧症の分類 

グループ1

肺動脈性肺高血圧症

比較的稀です。

グループ2

左心疾患由来

代表例

  • 僧帽弁閉鎖不全症(MMVD)
  • 拡張型心筋症

グループ3

呼吸器疾患・低酸素由来

代表例

  • 気管虚脱
  • 慢性気管支炎
  • 間質性肺炎
  • 肺線維症
  • 短頭種気道症候群

グループ4

肺血栓塞栓症

  • クッシング症候群
  • IMHA
  • タンパク漏出性疾患

グループ5

寄生虫疾患

  • フィラリア症 

グループ6

複合的要因

犬の肺高血圧症の症状

初期はほとんど症状がありません。

進行すると以下の症状がみられます。

最も多い症状の一つです。

特に

  • 朝方
  • 興奮時
  • 散歩中

に目立ちます。

運動不耐性

以前より散歩を嫌がるようになります。

  • すぐ座り込む
  • 歩く距離が短くなる

呼吸困難

重症例では

  • 口を開けて呼吸する
  • 呼吸数が増える
  • 努力呼吸

がみられます。


失神

肺高血圧症で特に注意が必要な症状です。

興奮や運動後に

  • 突然倒れる
  • 数秒で回復する

好発犬種

特定の犬種というより、

肺高血圧症の原因となる疾患を持つ犬種で多く発生します。

小型犬

  • チワワ
  • ポメラニアン
  • ヨークシャーテリア
  • マルチーズ
  • トイプードル

僧帽弁閉鎖不全症との関連が強いです。

短頭種

  • フレンチブルドッグ
  • パグ
  • ボストンテリア

慢性的な低酸素によって発症リスクが高くなります。

呼吸器疾患が多い犬種

  • ウエストハイランドホワイトテリア
  • シーズー

なども注意が必要です。

診断方法

聴診

  • 心雑音
  • 三尖弁逆流雑音
  • 呼吸音異常

ただし確定診断はできません。

胸部レントゲン検査

確認するポイント

  • 右心拡大
  • 肺動脈拡張
  • 肺野病変
  • 左心拡大

肺高血圧症の原因検索に重要です。

心エコー検査

現在の診断の中心です。

ACVIMガイドラインでも心エコーが最も重要な検査とされています。 

TR速度

三尖弁逆流(TR)の速度を測定します。

一般的に

  • 3.0m/s以上で疑い
  • 3.4m/s以上で可能性上昇
  • 4.3m/s以上では重度を強く疑う

ただし最近ではTRだけでなく、

  • 肺動脈拡張
  • 右心室拡大
  • 心室中隔偏位

などを総合評価することが推奨されています。 

血液検査

原因疾患の評価に重要です。

  • フィラリア検査
  • 炎症評価
  • 内分泌疾患評価

治療方法

シルデナフィル

現在の第一選択薬です。

PDE5阻害薬であり、肺血管を拡張させます。

多くの犬で

  • 呼吸状態改善
  • 運動耐容能改善
  • QOL改善

タダラフィル

近年注目されている薬です。

1日1回投与で済むため、

  • 投薬ストレス軽減
  • コンプライアンス向上

が期待されます。

一部研究ではシルデナフィルと同等の効果が示されています。 

原因疾患の治療

肺高血圧症単独ではなく、

原因疾患への介入が極めて重要です。

僧帽弁閉鎖不全症

  • ピモベンダン
  • 利尿薬
  • ACE阻害薬

慢性気管支炎

  • 吸入療法
  • 気管支拡張薬
  • 体重管理

気管虚脱

  • 鎮咳薬
  • ハーネス管理
  • 減量

などを併用します。

酸素療法

重症例では非常に有効です。

特に

  • 呼吸器疾患由来
  • 急性増悪

では積極的に使用します。

最新エビデンス

2020年ACVIMガイドラインでは、

肺高血圧症は単なるTR速度だけではなく、

右心系全体の評価が重要と強調されています。 

2023年の研究では、

肺動脈拡張(PA/Ao比)や右心機能低下が、症状や重症度と強く関連することが示されました。 

またシルデナフィルについては、

呼吸器疾患関連肺高血圧症や僧帽弁閉鎖不全症関連肺高血圧症で臨床症状改善が報告されています。 

一方で左心不全が強い症例では肺血管拡張により状態悪化の可能性もあり、慎重な使用が推奨されています。 

2025年にはシルデナフィルへ抗炎症脂質製剤(PCSO-524)を追加した研究で、運動耐容能や咳の改善が報告されており、今後さらなる治療選択肢の発展が期待されています。 

肺高血圧症の予後

予後は原因によって大きく異なります。

比較的良好なケース

  • 軽度肺高血圧症
  • 早期発見
  • シルデナフィル反応良好

予後が厳しくなりやすいケース

  • 重度肺高血圧症
  • 失神がある
  • 右心不全を伴う
  • 重度肺線維症

ただし近年は治療成績が向上しており、適切な管理によって長期間安定して生活できる犬も少なくありません。 

葛西・西葛西で犬の肺高血圧症の診断なら

犬の肺高血圧症は、

「咳をしているから気管支炎」
「高齢だから仕方ない」

と見過ごされることも少なくありません。

しかし実際には、

  • 心臓病
  • 呼吸器疾患
  • 肺高血圧症

が複雑に関係していることがあります。

特に

  • 咳が続く
  • 散歩を嫌がる
  • 呼吸が速い
  • 失神したことがある

という場合は早めの検査が重要です。

葛西中央どうぶつクリニックでは心エコー検査や胸部レントゲン検査を組み合わせ、肺高血圧症の評価と原因疾患の診断・治療を行っています。


参考文献

  • ACVIM Consensus Statement Guidelines for Pulmonary Hypertension in Dogs 
  • Johnson LR et al., JVIM 2020 
  • Yuchi Y et al., JVIM 2023 
  • Saetang K et al., Veterinary World 2020 
  • Grzeczka A et al., Applied Sciences 2024 
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