院長ブログ

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2026.10.01

犬・猫の無麻酔歯石除去と麻酔下歯科処置、何が違う?獣医師が詳しく解説

「歯石がかなり付いてきたので、そろそろ取ってあげたい」

「でも全身麻酔は少し怖い……」

「最近よく見る“無麻酔歯石除去”ではダメなの?」

犬や猫の歯科診療について、このような疑問を持っている飼い主さんは少なくありません。

特にインターネットで調べていると、「無麻酔で歯石を取れる」というサービスを目にすることがあります。

全身麻酔をしないのであれば、その方が体への負担が少なく、安全そうに感じるかもしれません。

しかし、ここで知っていただきたい大切なことがあります。

「目に見えている歯石を取ること」と「歯周病を診断し、治療すること」は同じではありません。

犬や猫の歯周病で本当に重要なのは、歯の表面に見えている茶色い歯石だけではなく、歯肉の内側、つまり歯周ポケットや歯の根の周囲で何が起きているかです。

今回は、東京都江戸川区西葛西の葛西中央どうぶつクリニックが、

  • 無麻酔歯石除去とは何なのか
  • 麻酔下で行う歯科処置とは何が違うのか
  • なぜ動物病院では全身麻酔を使用するのか
  • 全身麻酔にはどのようなリスクがあるのか
  • 高齢犬・高齢猫でも歯科処置はできるのか
  • 自宅でできる歯周病予防

について、できるだけ分かりやすく解説します。


そもそも「歯石」と「歯周病」は別のものです

まず知っておきたいのが、歯石そのものと歯周病は同じものではないということです。

犬や猫が食事をすると、歯の表面には細菌を含んだ「歯垢(プラーク)」が形成されます。

この歯垢が唾液中のミネラル成分などによって石灰化したものが「歯石」です。

歯石の表面はザラザラしているため、さらに歯垢が付着しやすくなります。

そして細菌による炎症が歯肉から深い部分へ進行すると、歯を支えている歯槽骨や歯周組織が破壊されていきます。

これが歯周病です。

つまり、

「歯石がある」=見た目の問題

だけではありません。

重要なのは、

「その歯の周囲で歯周病がどこまで進行しているか」

を評価することなのです。


無麻酔歯石除去とは?

一般的に「無麻酔歯石除去」と呼ばれている処置では、犬や猫を全身麻酔せず、起きている状態で歯の表面に付着した歯石を除去します。

一見すると、

「麻酔を使わない」

「歯石がきれいになる」

という2つのメリットがあるように感じます。

実際、処置後に歯を見ると、茶色かった歯石がなくなり、白くきれいになっていることもあります。

ここで問題になるのが、

「歯が白くなった=歯周病が治った」わけではない

ということです。

米国動物病院協会(AAHA)は、無麻酔で行う歯科処置について、基本的に目に見える歯の表面しか清掃できず、歯周病の適切な診断・治療にはならないとしています。

歯周病治療で重要なのは、むしろ歯肉の下だからです。


歯周病で本当に見なければいけないのは「歯ぐきの中」

歯周病を考えるとき、ぜひ想像していただきたいのが氷山です。

海面から見えている氷山はほんの一部で、その下には大きな氷の塊があります。

犬や猫の歯科もよく似ています。

飼い主さんから見えるのは、

  • 歯石
  • 歯肉の赤み
  • 口臭
  • 歯の変色
  • 歯のぐらつき

などです。

しかし、実際に歯科診療で確認したいのは、

歯周ポケットの深さ、歯肉縁下の歯石、歯槽骨の吸収、歯根周囲の病変、歯の根の状態

などです。

つまり、口を開けて見える部分だけでは歯の状態を完全には評価できません。


無麻酔では難しい「歯周ポケット」の評価

歯科処置では「プロービング」という検査を行います。

歯と歯肉の隙間に細い歯周プローブを挿入し、

歯周ポケットがどのくらい深くなっているのか

を一本一本確認します。

例えば、外から見ると比較的きれいな歯でも、プローブを入れてみると深い歯周ポケットが形成されていることがあります。

これは歯を支える組織が破壊されているサインです。

しかし、歯周ポケットの中に器具を入れる操作は刺激や痛みを伴う可能性があります。

犬や猫に、

「少し痛いけど動かないでね」

と説明して理解してもらうことはできません。

AAHAのガイドラインでも、歯周ポケットや根分岐部、露髄などを評価するためのプロービングを覚醒状態の動物に行うべきではないとしています。

そのため、正確な歯周ポケットの評価には全身麻酔が必要になります。


歯科レントゲンで初めて分かる病気もあります

もう一つ非常に重要なのが、**歯科レントゲン(口腔内レントゲン)**です。

犬や猫の歯は、私たちが口を開けて見ている部分だけでできているわけではありません。

歯肉の中には歯根があります。

そして歯周病が進行すると、

  • 歯槽骨がどの程度失われているのか
  • 歯根周囲に炎症がないか
  • 歯根が残っていないか
  • 抜歯が必要なのか
  • 猫の歯牙吸収病変がないか

などを評価する必要があります。

これらは、歯を外から眺めるだけでは分からないことがあります。

AAHAの歯科ガイドラインでは、見た目には正常に見える歯でも、歯科レントゲンを撮影すると臨床的に重要な異常が確認されるケースがあることが報告されています。

つまり、

「見た目がきれいだから問題ない」

とは限らないのです。


麻酔下の歯科処置では何をしている?

「歯石除去」と聞くと、

「超音波スケーラーで歯石を取って終わり」

というイメージを持たれるかもしれません。

しかし、適切な歯科処置では、それだけではありません。

当院を含め、動物病院で歯科処置を行う場合には、症例に応じて以下のような評価・処置を行います。

① 口腔内の評価

まず歯を一本ずつ確認します。

歯石の付着だけでなく、

  • 歯肉炎
  • 歯の動揺
  • 破折
  • 変色
  • 歯周ポケット
  • 根分岐部病変
  • 歯肉退縮
  • 口腔内腫瘤

などを確認します。

② 歯周ポケットの測定

歯周プローブを使い、歯の周囲を細かく評価します。

見た目では軽度に見えた歯周病が、実際には深く進行していることもあります。

③ 必要に応じた歯科レントゲン

歯肉の下に隠れている歯根や歯槽骨の状態を確認します。

特に抜歯を検討する歯では非常に重要な検査です。

④ 歯肉より上の歯石除去

超音波スケーラーなどを使用して、目に見える歯石を除去します。

これを「歯肉縁上スケーリング」と呼びます。

⑤ 歯肉より下の清掃

ここが非常に重要です。

歯周病では、歯肉の中に細菌や歯垢・歯石が存在しています。

そのため、歯の表面だけをきれいにするのではなく、必要に応じて歯肉縁下の清掃を行います。

⑥ ポリッシング

スケーリング後には歯の表面を研磨します。

歯石を除去しただけでは歯面に微細な凹凸が残ることがあるため、表面を滑らかに仕上げます。

⑦ 必要な歯の治療・抜歯

すでに歯周組織が大きく失われている歯や、感染源・疼痛の原因になっている歯については、抜歯などの治療を検討します。

つまり麻酔下の歯科処置は、

「歯を白くする処置」ではありません。

口腔内を検査し、歯周病を診断し、必要な治療を行う医療行為

と考えていただくと分かりやすいと思います。


無麻酔歯石除去と麻酔下歯科処置の違い

簡単に比較すると以下のようになります。

無麻酔歯石除去麻酔下歯科処置
全身麻酔なしあり
見える歯石の除去可能な場合あり可能
歯肉縁下の十分な処置困難可能
歯周ポケットの詳細な評価困難可能
歯科レントゲン困難可能
歯を一本ずつ詳しく評価制限あり可能
抜歯などの治療不可可能
気道の保護なし気管挿管で可能
歯周病の診断・治療大きな制限あり可能

最も大きな違いは、

「麻酔をするか、しないか」だけではありません。

「表面の歯石を取ることが目的なのか、口腔内疾患を診断・治療することが目的なのか」

という違いがあります。


「でも麻酔が怖い」という気持ちは当然です

ここまで読むと、

「麻酔下で処置した方がいいのは分かった。でも、やっぱり全身麻酔が怖い」

と思われる方もいるでしょう。

これは、歯科診療で非常によく受けるご相談です。

もちろん、全身麻酔のリスクがゼロになることはありません。

そのため動物病院では、

「歯石があるから、とりあえず麻酔をかけましょう」

と単純に判断するのではなく、

年齢、犬種・猫種、体重、心臓や腎臓などの基礎疾患、身体検査、血液検査、これまでの麻酔歴などを考慮して麻酔計画を立てます。

必要に応じて、

  • 血液検査
  • 胸部レントゲン
  • 心電図
  • 心臓超音波検査
  • 血圧測定

などを追加し、その子に合わせてリスクを評価します。

また、麻酔中は心拍数や心電図、血圧、酸素飽和度、呼気中二酸化炭素濃度、体温などを確認しながら管理します。

重要なのは、

「麻酔にはリスクがあるから歯科治療をしない」

と一律に考えるのではなく、

「麻酔のリスク」と「歯周病を放置するリスク」の両方を比較すること

です。


高齢犬・高齢猫だから麻酔できない?

「もう12歳だから歯石取りは無理ですよね?」

「15歳なので麻酔はできませんよね?」

このような質問もよくあります。

しかし、年齢だけで全身麻酔ができる・できないを決めるものではありません。

10歳でも重度の心疾患や腎疾患がある子もいれば、15歳でも全身状態が比較的良好な子もいます。

AAHAも、高齢であることだけを理由に、医学的に必要な麻酔処置を一律に断念するべきではなく、それぞれの患者の状態を個別に評価することが重要だとしています。

もちろん高齢になるほど基礎疾患を持っている可能性は高くなるため、若齢動物以上に慎重な術前評価が必要です。

「高齢だから絶対にできない」

でも、

「高齢でも絶対に大丈夫」

でもありません。

その子の全身状態と、歯科疾患を放置するデメリットを総合的に判断することが重要です。


「歯石が少ないうち」に相談するメリット

歯科診療で非常に大切なのが、重症化する前に相談することです。

歯周病がかなり進行してから治療すると、複数本の抜歯が必要になったり、処置時間が長くなったりすることがあります。

反対に、比較的軽度な段階で適切な処置とホームケアを開始できれば、自分の歯を長く維持できる可能性があります。

そのため、

「もっとひどくなってから歯石取りをしよう」

ではなく、

「このくらいの状態なら、今後どう管理するのが一番いいのか?」

という段階で一度獣医師に相談することをおすすめします。


歯科処置をしたら終わりではありません

麻酔下で歯をきれいにしても、その後何もしなければ再び歯垢は付着します。

そのため歯科治療では、処置後のホームケアも非常に重要です。

基本となるのは歯磨きです。

可能であれば毎日の歯磨きが理想ですが、最初から完璧を目指す必要はありません。

まずは、

「口元を触る」

↓

「唇をめくる」

↓

「歯に触れる」

↓

「ガーゼや歯ブラシを当てる」

というように、少しずつ慣らしていきましょう。

歯磨きが難しい子では、デンタルガム、デンタルフード、口腔ケア製品などを併用する方法もあります。

ただし、こうした製品はすでに形成された重度の歯周病を治療するものではありません。

ホームケアはあくまで予防・再発予防として考えましょう。


こんな症状があれば一度歯科診察を

以下のような症状がある犬・猫は、一度口腔内のチェックをおすすめします。

  • 口臭が強くなった
  • 黄色~茶色の歯石が付いている
  • 歯肉が赤い
  • 歯磨きをすると出血する
  • 硬いものを食べなくなった
  • 食事を片側だけで噛む
  • 食べ物を口から落とす
  • よだれが増えた
  • 口を触られるのを嫌がる
  • 歯がぐらついている
  • 歯が折れている
  • 顔が腫れてきた
  • くしゃみや鼻水が続いている

犬や猫は、人間のように「歯が痛い」と言葉で伝えることができません。

また、口腔内に痛みがあっても食事を食べ続ける子は珍しくありません。

「ご飯を食べているから歯は痛くない」

とは限らないことも覚えておいてください。


まとめ|大切なのは「歯石を取ること」ではなく「口の中を治療すること」

無麻酔歯石除去と麻酔下歯科処置。

この2つを比較するとき、

「麻酔あり vs 麻酔なし」

だけで考えてしまいがちです。

しかし、本当に重要な違いはそこではありません。

無麻酔で目に見える歯石を除去すると、一見すると歯はきれいになります。

しかし、犬や猫の歯周病で問題になるのは、目に見えない歯肉の下で進行している病変です。

適切な歯科診療では、

診察 → 麻酔 → 詳細な口腔内検査 → 歯周プロービング → 歯科レントゲン → 歯肉縁上・縁下の清掃 → ポリッシング → 必要な歯の治療

という流れで、口腔内全体を評価します。

「歯石を取る」のではなく、

「歯周病を見つけ、必要な治療をする」

ことが目的なのです。

一方で、全身麻酔にはリスクがあります。

だからこそ、年齢だけで判断するのではなく、その子の全身状態を確認し、必要に応じた術前検査を行ったうえで、

歯科処置によって得られるメリットと麻酔リスクを個別に評価すること

が大切です。


江戸川区・西葛西で犬猫の歯石・歯周病にお悩みの方へ

葛西中央どうぶつクリニックでは、犬・猫の歯科診療を行っています。

「歯石が付いているけれど、今すぐ処置した方がいい?」

「口臭が最近ひどくなってきた」

「高齢なので全身麻酔が心配」

「他院で抜歯が必要と言われた」

「無麻酔歯石除去と迷っている」

といったご相談も可能です。

歯石の量だけではなく、年齢、全身状態、歯肉炎や歯周病の程度などを確認し、その子に合った治療方法を一緒に検討していきます。

東京都江戸川区・西葛西、葛西周辺で犬・猫の歯科、歯石除去、歯周病についてお困りの方は、葛西中央どうぶつクリニックまでお気軽にご相談ください。


参考情報・外部リンク

American Animal Hospital Association(AAHA)
2019 AAHA Dental Care Guidelines for Dogs and Cats

犬猫の歯科診療について、全身麻酔、歯科レントゲン、歯周プロービング、スケーリングなどの考え方がまとめられています。

American Veterinary Dental College(AVDC)
Companion Animal Dental Scaling Without Anesthesia

犬猫の無麻酔下での歯石除去について、獣医歯科の観点から見解が示されています。

Veterinary Oral Health Council(VOHC)

犬猫のホームデンタルケア製品を選ぶ際の参考になる情報が掲載されています。

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